あのトモ

- 本に出てくるあの娘ぼくがトモダチになろうっていったらどんな顔するんだろう -

世界の終わりの天文台 … いるか分からない相手と通信するロマン

冬は寒いから嫌だけど、寒いからこそ、わずかなあたたかさに気づけるのかもしれないとも思う。冬らしく、静かで、少し心があたたかくなるような本を探していたら、SFの新刊で良さそうなものと出会ってしまった。

主な登場人物

  • オーガスティン … 北極のバーボー天文台に住む老物理学者
  • アイリス … 突もつれた黒い髪とハシバミ色の眼を持つ、八歳くらいの少女

  • サリー … 木星探査船アイテルの女性通信技術員
  • ハーパー … アイテルの船長、サリーといい関係
  • タル … アイテルの技術員、ギーク
  • デヴィ … アイテルの技術員、インド系の若い女性
  • イワノフ … アイテルの地質学者、神経質だが家族思い
  • シーブス … アイテルの物理学者、船では一番ゆったりした性格の黒人男性

あらすじ

大国同士の最終戦争の気配が漂う中、一人北極の観測所へ残る事を選択した老学者、オーガスティン。すでに名声もあらゆる経験も手に入れてきた彼は、気がついた頃にはすっかり歳をとっていて、妻も子供も家族もおらず、北極が死に場所としてふさわしいと思えていた。仲間たちが大慌てで国へ帰った後、独りぼっちの生活を送っていたある日、宿舎のベッドに八歳くらいの少女、アイリスを見つける。アイリスは口をほとんど聞かず、だれの子どもかも、どうやって来たのかも何も分からなかった。オーガスティンはアイリスとの生活の中で過去の回想をぽつぽつと始める。彼にはかつてたった一人愛した女性と、顔も知らない娘がいた。…

時を同じにして木星探査船、アイテルは、木星の衛星調査を終え、地球への帰路の途についていた。調査は成功、仲間も全員健康で無事だったが、ある時から地球からの通信が途絶えていたことだけが不穏な影を投げかけていた。乗船員は家族同様に仲良くなっていたが、長旅を経て地球の家族が恋しいものも少なくなかった。しかしサリーは複雑な感情を抱いていた。地球に残して来た娘と夫には、長期間仕事のために不在にすることがあまり良い風に思われていなかった。色々な思いが交錯する中、ある日、アイテルのアンテナのひとつが壊れてしまい、交換する必要が出て来た。それは危険なミッションだった。

所感

あらすじの通り、物語は時を同じにして異なる場所、北極と木星探査船アイテルの双方の視点から語られる。一見なんのつながりもないような二つの物語はアイテルが地球へ接近するにつれ、しだいに近づいてゆく。感のいい読者なら最後まで行く前に徐々に気がついて行くような構成だ。特に終盤、繋がるかどうか分からない相手と通信すること、っていうのはこれほどロマンチックなことなのかと思わされた。またその舞台となっている北極から想起させられる、何もない美しさと静けさがそのイメージを強めていた気がする。

SF!って感じの見た目な小説だけど、蓋を開けてみると、SF色を帯びた、心に隙間のある人間同士のヒューマンドラマだった。私は特にオーガスティンの章が好きで、彼とホッキョクグマの不思議な関係と彼らの最後のシーンにぐっと来てしまった。

作中でデヴィッドボウイの名が出てくるのはあ、やっぱり、というかんじがして、私はこの作品の中読んでる時頭の中には彼の曲のイメージがあった。

望み通り、静かで、少しだけあたたかい、そんな冬らしい作品だった。

世界の終わりの天文台 (創元海外SF叢書)

世界の終わりの天文台 (創元海外SF叢書)