あのトモ

- 本に出てくるあの娘ぼくがトモダチになろうっていったらどんな顔するんだろう -

ハリネズミの願い - ヘンな自分だけど友達は欲しいんだっていう気持ち

ハリネズミの願い

ハリネズミの願い

オランダでは相当に有名な作家だそう。

あとがきによると、テレヘンは医者をやりつつ、(マサイ族の専属医師だった経験もあるそうです)このような柔らかい物語を四つのルールを定めて(おなじ動物は出てこない/動物は皆同じサイズ感/人間は出てこない/誰も死なない)書いているそう。

2017年本屋大賞翻訳小説部門一位に輝いた、子供から大人まで楽しめる、ひとクセ光るキャラクターの出てくる本です。

あらすじ

自分の針にコンプレックスがあるハリネズミ。家にみんなを招待したいのだけれど、いざ誘ったらうまくいくかどうかばかり気になってしまいます。

招待状を書きながら想像のなかで、相手が来た時にどんなことが(大抵はマイナスなこと)起きるのかを詳細に検討しては丸めてしまいます。カミキリムシ、ハエ、アリからキリンやクジラ、ひいては「ことば」や「孤独」と言った抽象的なものたちまで、実に40件もの事例を検討しては破り捨ててゆきます。

〇〇がきたらこういう行動をとるだろう(大げさにマイナスな方向で)、したら〇〇になる(不愉快な結果)からやっぱり呼ばないようが一番いいに決まっている。という思考回路です。

でも、我に帰るとやっぱり誰かを(他のみんな同士で招待しあっていて、楽しそうな様子を自分も同じように味わいたくて)招待したいという気持ちになる。... そんなハリネズミの気持ちはどこへむかうのでしょう?

「ぼくのなにがおかしいのだろう?」

個性的な仲間たちとの付き合い方

出てくる動物たちが、それぞれの動物の性質を踏まえてキャラ立ちしています。40種類弱の生き物が出てくるのですが、自分と近しい生き物は必ずいそうです。私はアナグマであり、ミーアキャットであり、ふくろうでした。

すっごい共感。人と人が顔を突き合わせた時、そこで「話題」ってなにがそうなり得るのだろうというアナグマの疑問。すべきことを探してしまうミーアキャットの態度。そっからのふくろうですよ。あなたのキャラはなんでしょう。

作者はもともと、友人同僚に配る日めくりカレンダーの一角として、このような小編を綴っていたそうでして、確かに年間を埋めるなら、この量のキャラが出て来るのは納得でした。オランダも日本もそうは、ピックアップする動物のセンス、ズレは無いんだなと思いました。

本筋に戻って ... ハリネズミは家に来たお客さんをもてなす方法をあれこれ検討しますが、そのうちやっと気づきます。「みんな」の要求を満たすケーキを焼くことはできないし、もてなしもできない。じゃあどうすれば良いのか ... そんな思案の末、ハリネズミはどんな友人を誘いたいのか、を検討します。

しかし浮かばない。 ... そこで自分は何かがおかしいのではないか、と考えます。

ほくのなにがおかしいのだろう?

私に言わせてみれば、彼はもともとおかしいんです。出てくる動物たちの中でハリネズミは彼だけなんですから、彼だけの特徴があるのは当たり前なんです。

さらにいうと、ハリネズミの想像上の他の動物たちも、ハリネズミの基準からすればそれぞれ個別におかしいんです。訪問と同時に食欲が優先して食い散らかすクマ、水浸しにするクジラなど。

でもハリネズミは自分がおかしいと思いたくないから、精一杯お客さんごとに異なるおもてなしを検討するんです。そこに彼の苦しさがあるようでした。

お客さんがどんな妙な振る舞いをしても、その中で楽しんでもらえるよう対応を考える。場合によってはハリネズミ的に相当無理をする結果になっています。もてなしつつ、でも全然楽しくないだろうから、状況に表情がついていけてなくて、ぎこちない笑顔をしてそうです。

なぜそんな行動をとってしまうのか、それはハリネズミに自信がないからでしょうね。そのままのハリネズミで「在って」よいのかどうか、その「在り方」は正解なのかどうか、きっとそれまで誰からも自分からも、認めてもらったことがないんでしょう。特に彼の場合はハリっていう(ほかの動物はもっていない)コンプレックスを持っているから、余計に気にして来たのでしょう。

誰かに認めてもらいけど、その誰かがわからないから、とにかくみんなに合わせてその、誰かを探そうとしている。

こんな経験をお持ちの方はほんとハリネズミが愛おしくてしようがなく読めるはずです。

自信のないハリネズミの成長が愛おしい

またそこにいたんだね、もしかして遊びに来てくれたの? そうなんだね。なんてやさしいんだ。僕のところには、お客が全く来ないんだ。僕も誰のところにも遊びに行かないし! おもしろいだろう?

そのうちハリネズミは自分と会話するすべを習得します。レベルアップ! このシーンは、なぜかホロリとくるものがありました。さみしいけれど、そうするしかないんだ。うん。

「ぼくにはどうすることもできないんだ」

さらにハリネズミは怒りをあらわにするすべを習得します。またレベルアップ!

物語の後半になり、(もちろんすべてはハリネズミの想像の中ですが)理不尽な訪問者たちに対し、その理不尽さを、彼なりの怒りの感情を持って糾弾できるようになります。

私にも経験があるのですが、自信がないうちって、自分の根拠がふわふわしているから怒りも上手に出すことは難しいんですよね。

やったね、ハリネズミという気持ちになりました。

最後の最後はちょっとしたカタルシス。ほんっとに優しい気持ちになって本を閉じることができます。

「ベストフレンド」

ハリネズミは「ベストフレンド」って言葉とともに肩を抱いてもらうシーンを想像することがありました。

「親友」とか「ベストフレンド」ってことば。孤立しているやつには切な過ぎる単語ですよね。

だってひと枠しかないんですよ、誰かのそこにはいりこめるなんて奇跡みたいなことだし、ちょっと重いものです。

でもやたら小中学生の頃ってこのことばみんな好きで、使ってました。それ言い合うことで承認の証としていたフシがありました。でも、本当に仲良いやつらは別に言葉上のこういう魔法なんかなくてもふわっと仲良しだったりするもんですよね。

ハリネズミのその後を応援せずにはいられない一冊でした。

私は、手紙書く書かないのひとつで、こんなにも想像を膨らませることができるハリネズミは、いい友達になれると思いました。