あのトモ

- 本に出てくるあの娘ぼくがトモダチになろうっていったらどんな顔するんだろう -

あなたの人生の物語 - 結末が見えてしまってもまだ、その人生を愛おしむことは可能か

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

将来の夢、キャリアプラン、人生の計画。「目的」を定めて行動することで、人生にハリが生まれます。わたしたちは不確定な未来に半確定の要素を置き、それを頼りに各々人生の歩みを先に進めます。

ではもし、これから自分に起きるすべてのことが 、今この文章を眺めている瞬間にもわかってしまうとしたら。

将来の夢が叶わなくても努力を続けるのでしょうか。最後に悲しい結末が見えていても、目の前の人と共に生きる道を選択するのでしょうか。未来を、変えようともがいたりするのでしょうか。

そんな状況を、主人公を通して考えさせられる「あなたの人生の物語」は、同名の短編集に収められています。

全体を通じて誰かに語りかけているような、柔らかい語り口の短編です。その理由は最後まで読み終えた時、静かな余韻と共に納得できるので、ぜひ試してみてください。

主人公は優秀な言語学者、ルイーズ。彼女は政府から、地球の外から来た生物との対話を取り持つよう指令をうけます。

例えば、目の前にカタツムリがいて、それの言っていることを翻訳せよと言われたとき、何から始めますか。

カタツムリでも、カエルでも、ツバメでも何でも良いのですが、およそ言葉が通じないと思われる何らかの生き物がいたとして。…

物語の見所のひとつは、ルイーズが地球外生命体と対話をするのに使ったアプローチです。言語学的、文化人類学的なアプローチで少しずつ対話を成立させていく様子が丁寧に描かれています。

実際に地球外生命体と対話をする時に、そうなるんじゃないかなと思うリアルさです。

もう一つの見所は、彼女が地球外生命体のもののみかたを習得していく様子です。

言語を学ぶことは思考体系を学ぶこと

ですよね。わたしなんかも例えば、英語の過去完了の文法を学んだ後で、明確にいつからいつって時制を意識したものの考え方を学びました。

英語の、明確な主語から始まり、抑揚に富んだセンテンスはスピーチをするのに向いていて、話していて自ずとジェスチャーが出てしまう、出やすいものだ、というのも発見だったりしました。

さて、これやりたいーと適当な指標を定め、その「目的」に向かって生きるわたしたちとは異なり、先を見通す能力を持つ地球外生命体は何というか、「過程」を生きているらしいことが明らかになってきます。

ルイーズは、対話を重ねるうちに「過程」を軸とするもののみかたを身につけますが、その視点は、どこか穏やかな諦念を含んだものでした。

先が見えてしまうと「過程」に軸をおくというもののみかたになるって、ちょっと考えさせられます。

これからおきするべてのことが見えてしまっている生き物のとる行動原理を、興味深く読むことができます。

「メッセージ」という邦題で映画化され公開されてます。

それは原作に大胆な脚色がなされたものでしたが、わたしにとっては、ある、特異なロマンチックさを感じさせる作品でした。

原作と映画、合わせて見て比較するのも面白いです。

http://www.message-movie.jp

ページを閉じ終わった時には、あなたのものの考え方も、少なからず、彼らに影響されていることに気づくのではないかと思います。

結末が見えてしまっていたとしてもまだ、この人生を愛おしく思い続けられるでしょうか。どうでしょう。

※ このテキストは京都のどこかで見つかるかもしれない、"海外文学を応援するフリーペーパー"「森のなか」の内容をすこしなおしたものです