あのトモ

- 本に出てくるあの娘ぼくがトモダチになろうっていったらどんな顔するんだろう -

一千一秒物語 - 月に変にさせられて月になっちゃった話

稲垣足穂一千一秒物語」よりお月さま

今日のお月さまの光が澄んでいたから思い出して読みかえした。

仕事の帰り道に空を見上げればみんな詩人になってしまう。ちょっとくたびれてる頭と日によって違う顔をするお月さま。なんでもないその日にちょっとだけ特別感を出したくなって、一句詠むにはうってつけの組み合わせだ。もしそこにアルコールが入っていたらさらにやばい。ツイッターにポエムを投稿しかねない。

稲垣足穂一千一秒物語は支離滅裂で文章っていう感じではない。綺麗なお月さまを見た酔っ払いが投稿したツイッターポエムみたいな断片がいくつかまとめられたものなんだけど、たまにはっと文字が画として目の前に再現されることがある。あたかもさっきまで自分がそういう夢を見ていたみたいな気持ちにさせられる。

なんでこの文章、はじめに読んだ印象が素敵に思えたのか、読み返してみるとそれほどまでにその魅力が思い出せなかった。でもはじめに読んだ後に浮かんだ印象が変に残る文章だった。変なの。多分文脈の支離滅裂さと、「月」というモチーフの不気味さ、神秘さがからんで妙な「変に残る」独特な味を出すことに成功していたんだと思う。

特徴

稲垣足穂のお月さまはよく石を投げられる

・矢を射られることだってある

・ときに怒って仕返しをしてくるけど朝になると上品に謝ってくる

・ときどき自分自身をポケットから落っことしたり

・サイダーの中にいれられることもある

・そして割と三角形という説がささやかれている

考察

このお月さまはただ天空に浮かんでいる衛星ではとどまらない。

ヒトはお月さまに対して石を投げたり矢を射ったり、引っ掛けて捕獲してサイダーに入れて溶かして飲んだりいろんなちょっかいをだすのだけれど、このお月さまはときにヒトに仕返しをする。しかも結構ちからわざで仕返ししてくることが多い。お月さまのくせにだ。たとえばぶん殴ってきたり、ビールの瓶を投げてきたりする。

このお月さまは自分自身をポケットに入れておいて、つまづいてそれを落としてしまったりする。どういうことよ。

このお月さまをサイダーに溶かすと紫色の煙が出て、少し黄色みを帯びた液体がのこるらしい。それを飲むと「ああいうぐあい」になっちまうらしい。毒らしい。

そして実は、ほんとうに存在するわけではなく、黒いボール紙のうえに、ブリキで貼ってあるだけのシロモノらしい、と事情を知る誰かさんが説明する。誰かさんは空の上から垂れ下がった縄梯子からきた。

お月さまが偽物なのか、縄梯子の誰かさんが存在するのか、お月さまが仕返しをしてくるのか、そんなことは多分どうでもよくなっちゃっていて、お月さま(として見える空の上の丸い光)の光に当てられて、ものの見え方が月仕様になっちゃったヒトの世界の描写として本物の内容が描かれているのだと思う。

稲垣足穂のお月さまはこんな感じ。私のお月さまが見せる、月みたいな何かの見せる世界はちょっと別の時に、別の小説と一緒に考えてみたい。