あのトモ

- 本に出てくるあの娘ぼくがトモダチになろうっていったらどんな顔するんだろう -

豚吉とヒョロ子 - 踊るカタカナ、ドグラマグラだけじゃない!...

 

夢野久作全集〈1〉 (ちくま文庫)

夢野久作全集〈1〉 (ちくま文庫)

 

 

 

夢野久作 豚吉とヒョロ子

これは電車で読むの禁止本でした、おもしろすぎです。

青空文庫で読める、夢野久作の小説です。いまから91年前、大正15年の作品です。

わたくしごとですが、この2017年始はインフルエンザで隔離されておりました。当然本屋には行けないので青空文庫を漁っていたところ、偶然この話にたどり着きました。

夢野久作というと「一度読んだものはその精神に支障をきたす」といわくつきの作品、 ドグラマグラ が有名ですが、青空文庫を見ていると彼は幾つものペンネームを使い分け、ヘビーなのから児童向けのような作品まで多数執筆していたようです。中でも本作は、まるで落語のようにとんとんと軽快なストーリーと、愉快なキャラクターがでるもので、インフルエンザの頭でも十分に理解できる内容でした。

なおこちら、「とんきち」ではなく「ぶたきち」ですのでご注意を。

ほんとに大正15年??なドタバタコメディ

あるところに普通の人の半分の体重で普通の人の倍の身長を持つ女と、普通の人の倍の体重で普通の人の半分の身長を持つ男がおりました。そのまま女は「ヒョロ子」、男は「豚吉」と呼ばれておりました。ふたりが年頃になると村の人はノリで二人を夫婦にしようとしました。

「あの二人を夫婦にしたらなおなお珍らしかろう。村の名物になると思うがどうだ」

(これはどうみてもよっぱらいの提案だろう!...)

二人は晴れて夫婦になりましたが、二人揃って目立つのが苦手なタイプでしたので注目を嫌って村から逃げ出したのでした。... そこから井戸にハマったり、罠にかかったりドタバタドタバタ。そうしているうちに二人はコンプレックスを解消してくれる凄腕の医者の噂を耳にしたのでした。

緩急おさえたコメディセンス

この二人の言葉のコントラストから感じるユーモアのセンスは、91年前の小説とは思えません。河の渡し守のおばあさん(超ケチ)に向かって吐くセリフ「梅干し婆!」って、最高じゃないですか。

ヒョロ子はばか丁寧な物腰ですが、一方でサバサバした面もあります。そしてなによりもヒョロヒョロなのにものすごい怪力持ちという設定はぶっ飛んでいます。

異様なテンションの高さ、時代の古さ、キレの良さ、... なんとなく頭の中には Zazen Boys の音源が流れてきて、クドカン的な演出が施されているようにも思えてきます。そう、これを読みながらわたしは「真夜中の弥次さん喜多さん」を思い出しました。

イエーイ、無茶先生登場!

さてさて凄腕の医者は通称、「無茶先生」と呼ばれていました。それは彼が無茶な施術を行うことで有名だからです。ただし、無茶ながらも必ず治してくれるというので評判でした。

まるで手塚治虫ブラックジャック」のようですが...

... 院長の無茶先生に会いますと、先生は髭もあたまも野蕃人のように長くのばして、裸体ぱだかで体操をしていましたが、二人の姿を見るとニコニコして裸体はだかのまま出て来て、...

ちょっとまてこのひとやばい。

しかし読み進めていくと、無茶先生が全裸ということはいつの間にか大したことないものになってくるのが不思議です。かれはその後奇術めいた施術で多くの人を救います。

  • 学校に行く時間になると不思議とお腹が痛くなる少年に対しては→朝食を抜けばよい。されば腹が減り学校へ行くだろう
  • カンシャクもちのオヤジに対しては→頭のてっぺんに蓋を作る。カンシャクが起きたら蓋を取れば良いだろう

画期的ですね!とまあこんな具合です。

無茶先生は最強!映像化するなら個人的にはビートたけしにやってもらいたいです。

アァ言いたくてしょうがない!!な、おしゃべり山爺

豚吉、ヒョロ子、それに旅の途中で出会ってしまった無茶先生... の最強のトリオはもちろん人の好奇をひきます。豚吉とヒョロ子は例によってほっといてほしいタイプなので、3人はひたすら問題を起こしては逃げまくります。

そうやって山を越え河を越えたどり着いた山小屋には、また面白キャラがいますが割愛...。RGかよ!って思いました。

歌吉さん、広子さん、牟田先生 の旅の果て

数々の困難を超え、3人の旅は幕を閉じます。アレ、名前が変わっている...?

名前も顔も変わりますが大団円はめでたしめでたしです。

踊るカタカナ!

なんといっても夢野久作のカタカナ、たまりません...!

わたしはなぜか幼い頃から、ひらがなには妙な不気味さを感じていました。NHKの子供向け番組でひらがなのられつが画面に表示されると、得体の知れない気持ち悪さがありました。なんでしょう、素朴なんですが、その素朴さがおそろしいというか逆らえないというかうまく言えませんが。

一方でカタカナは、素朴であり、すなおに幼稚さも感じられてすきでした。ピュアな感じ。これもなんでしょうね、戦前の教科書などカタカナで書かれたものが社会科の資料集などにのっているのを目にして、そこからイメージがついているのかもしれませんね。

この文章にはそのイメージにドンピシャな、可愛らしくて、素朴でちょっとバカな感じのするたのしいカタカナが踊っています。しかも夢野久作の文章の場合、そこにひとつまみの狂気が混ざって絶妙な味わいを醸しています。きらきらしています。

"一パイ"

"ハンケチ"

"サァ大変だ!"

おわりは無茶先生自作の歌でどうぞ

生れてすぐ死ぬ虫さえあるに
 人の一生はちと長過ぎる
 酒を飲め飲め歌って踊れ
 飲んで歌って踊り死ね