読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

あのトモ

- 本に出てくるあの娘ぼくがトモダチになろうっていったらどんな顔するんだろう -

舞台 - 生を演じることが下手くそな人へ

 

舞台 (講談社文庫)

舞台 (講談社文庫)

 

下手くそな道化を演じる人間の物語

カイヨワ の 「遊びと人間」 の中では、人類は文明化の過程で 模擬(演技) と 眩暈 から 競争 と 運 の遊びに比重を置くようになったといいます。本作は、演じる行為が極端に下手くそになり、窮屈な生き方しかできなくなった現代人の物語です。

 主人公は「空気を読む」ことに囚われている今時の青年29歳。彼は調子にのることを避けようとし、周りから浮かない様に細心の注意を払って無印良品のベーシックな衣服を身にまとい、その場その場での最大公約数的な振る舞いを志向する人間です。なんて、がんじがらめなんだろうと、読んでいて窮屈で、辛くなりました。

この辛さを思うのはしかし、彼のやっていること、得体の知れない何かとバカみたいに闘っていることに覚えがあるからです。彼は何から外れることを恐れて、闘っているのか。…

彼が守ろうとしているルールは実体がなくてつかみようがなく、そのくせ底が知れない空洞の様なものです。それは一般とか、常識とか、普通とか、例えばそんな言葉でくくることができるかもしれないけれど、本当のところそれらは彼が勝手に頭の中で作り上げたものにすぎません。全ては彼の中での葛藤です。

この物語の辛さの原因は、彼が闘っている世界、「舞台」には、彼の他誰にもいないということに気づいていない、ということでしょう。

誰も、その闘いなんか見ちゃいないし興味もない、ということに彼は気づいていなかったのでした。

物語も後半になり、やっと彼は彼自身だけが体感する恐怖や空腹感、つまり肉体的精神的に切迫した感覚を持って、孤独を知ります。そしてようやくその無益な闘いの形に少しだけ気づくという内容です。

誰のための「人生のレール」の話をしているのか

私の頭の中でもいつのまに、自分の人生のレールみたいなのが出来上がっていました。

日本からアメリカへ行き、また同じ日本の場所へ帰ってきたわたしは、帰国後いろいろな違和感に気がつきました。なぜ全ての女子中学生はディズニーのグッズが好きなのだろう。なぜ判を押した様にイーストボーイのカーディガンと紺色ソックスを履いているのだろう。そしてなぜ数人で一緒にトイレへいかなければならぬのだろう。... でもいつの間に、窮屈さは抱えつつ、そのシステムの中に組み込まれていた私がいました。

根拠はわからないけど確かに明文化されていないルールがそこにありました。ルールは、深く考えずにとりあえず従ってしまえば、何も問題はないものです。安心感がもてます。みんなと一緒、わたしは何も悪くないしダサくもない。まともだと。... 

さらに、くだらないルールは条件を満たせば「あそび」ともなります。みんな見てるテレビ番組に出てくる人の真似をしてみたり、ひとまず流行っているものに乗っかって、みんなで同じ格好をして写真を撮ることは大いにはしゃげるものでした。

しかし、私にとってはくだらないルールとそうでないものの境界が難しかったのでした。例えば、普通の中学生はこれが好きだとか、普通の帰国子女は最低でも○○大学くらいは行けているとか、○○歳までには彼氏を作って、海外留学をして、インターンやボランティアなんかもして、年収これくらいの企業へ就職して…など、誰のものかもわからない人生のレールを、周りから受ける影響そのままに私は作り上げていたのでした。

そういえば、日本に帰ってきたあとで「広告がうるさい」ことに腹が立ったものでした。まち、学校、テレビ、インターネット...どこを見てもああしろ、こうしろ、ああしたい、こうしたい(そうするのが格好よさそうに言っている)、そんなメッセージの洪水です。私は一度書店の中で本の並びを見ている時に叫びだしたくなったことがありました。世の中にはこんなにも、それぞれで言いたい事があるひとがいて、各々に勝手な事を言っている。誰も本当は他人のことなんか興味なくて、自分の意見さえ言えればいいのだろうと思うと、たまらなくなったのでした。うるさい、うるさいと思いました。私だけのために用意されたメッセージなんて、どこにもありませんでした。

大学生の中頃になりそのレールに乗れていない自分に気がつき、憂鬱な期間を過ごす事になりました。そうしていてやっと私の「人生のレール」、これは多分自分のものではないなと、ようやく気づく事ができました。それまでの空回りの苦労を思うと涙が出ていました。私はこの本を読んでいて、当時の事を思い出しました。

あなたはあなたの物語の主人公だけど、この世界はあなたの舞台としてあらかじめ用意されているわけじゃないよ、と。このまっさらな舞台の上に、自分で物語を描いていかなければならないのだよ、と、当時の私や本作の主人公と話をしてみたいです。

自分の人生を生きることは、思ったよりも自分の事を考えなくてはいけないし、どうにか自信というものをこしらえて、タフでないといけないことのようでした。…