読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

あのトモ

- 本に出てくるあの娘ぼくがトモダチになろうっていったらどんな顔するんだろう -

生きている源八 - 男前なキャラクター光る短編集

 

生きている源八 (新潮文庫)

生きている源八 (新潮文庫)

 

 前回に引き続き山本周五郎です。「さぶ」ですっかり山本周五郎作品のキャラクターと、小気味良いべらんめえ調の文章が気に入ってしまったわたしは、ブックオフで次は何にしようかと物色しました。その時に気がついたのですが、新潮文庫から出ている山本周五郎作品の背表紙はメタリックブルーで統一されていて格好いいです。それら一つ一つ手に取り文庫の裏にあるあらすじを吟味し、あとはタイトルでコレに決めました。バーコードはありません。(バーコードがつくのは1990年以降です。参考:日本図書コード - Wikipedia

12編の短編からなる一冊です。

  • 熊谷十郎左
  • 西品寺鮪介
  • 足軽槍一筋
  • 藤次郎の恋
  • 聞き違い
  • 新女峡祝言
  • 立春なみだ橋
  • 豪傑ばやり
  • 生きている源八
  • 虎を恐るる武士
  • 驢馬馴らし
  • [戯曲]破られた画像

それぞれタイトルが渋すぎますが短編なのでさらっと読めます。どれもエンタメとしてぎゅっと展開がまとまっていて「日本のむかしばなし」を読んだ読後感にちかいものがありました。そして期待通り魅力的なキャラクター、特に男前なキャラクターたちとたくさん出会う事ができました。特にグッときたものいくつかを抜粋します。

しかしタイトル、渋いですね。(いいですね〜)

西品寺鮪介(にしほんじしびすけ)- ストイックすぎる、愛すべきバカな格好よさ

全編どれも男たちの渋くて格好いい生き様が描かれているのですが、中でもストイック大賞をあげたいのはこの一編です。

鳥取藩所属の佐分利猪十郎という侍が、釣りをした帰りに通りかかった西品治村で奇妙な男と出会います。鮪介と呼ばれるその男はのどかな田舎の農家の軒先でひとり、鬼気迫る様子で白刃を振りかざし、地面に刺した針を真っ二つに割ろうとしていたのでした。

剣術の先生(モグリっぽいけど鮪介はそう思ってない)が 「縫針を狙って当てる事ができれば、極意が得られる」みたいな最もらしい事をくちばしったのがきっかけで始まったものです。その太刀筋があまりに見事なので佐分利は彼を藩へスカウトします。

鮪介は藩に招待されると他の侍との力比べを試されましたが、誰も彼に敵うものは出てきませんでした。しかし酷い訛りの田舎者であり、藩所属になった後も正気の沙汰とは思えない修行、針の切断を試み続けたので裏ではいつもバカにされました。

そんなある日、町で商人が理不尽な理由で侍にケチをつけられていたのをかばって、鮪介は侍から一方的に殴る・蹴るの暴力を受けます。剣であれば鮪介に敵うはずはないのに、このとき鮪介はあまりの強さの故、殿様から剣を封じられていたのでした。しかし鮪介、状況に動じることなく暴力を受けながらも針のことを考えていて、ついに悟りを開きます。そして針を割ることに成功するのです。

ここからが格好いいポイントなんですけど、針を割ることに成功した鮪介は刀を捨て、元の西品治村の農民に戻してもらうよう藩に請願をするんです。彼は針を割る、という一つの目的のためだけに刀を持っていたのであり、別に侍になりたいわけではなかったのです。剣を持たせれば最強だったのに、自分は根っからの農民だというプライドを持って、すんなりと剣を捨て、農業に転向したのでした。彼の非常なストイックさをもって、農業も大いに成功します。

余談ですが鮪(まぐろ)という字、「しび」って読むの、この短編で初めて知りました。

生きている源八 - ああ、気づかなかったわーな格好よさ

頼もしい大賞はこの一編でしょう。

五尺そこそこの小男でもあり、色の黒い眼尻のさがった、しかんだような顔つきで、どうひいき眼にみても豪勇の風格とはいえない

こういう男が主人公、通称源八もとい兵庫源八郎です。舞台は江戸時代初期、まだ戦乱治りきっていない時代です。源八郎はこのようにイケメンとはいえない描写です。しかしいやいや、彼のすごいところは(そして、こんなキャラクター他でみたことないのですが)どんな凄惨極まる戦でも必ず帰ってくることなのです。

源八郎以外全滅するような場合も何度かあったので、源八郎だけ何かずるをして生き残ったのではないか、卑怯者、弱虫と蔑んだりする人々も当然いましたが、同業者の武士たちは、戦における源八郎の、先陣切って真っ先に死にに行くような戦い方を知っているので信頼されているのでした。

ではなぜ源八郎は生き残るのか。

あるとき、敵対する武田軍の配備の偵察役を源八郎と同僚の小林大六は命じられます。その中で明らかになるのですがこの源八郎、見かけによらずめちゃめちゃ頭が良いことが判明します。奇襲をかけることに成功し、敵のフリをしてまぎれ込み見事に偵察を成功させて帰ってきます。

格好いいポイントはその賢さのギャップともう一つ、ラストシーンで見せつけた運の良さと、戦場での余裕っぷりです。源八郎以外全滅の場面でしたが彼だけは、やはり期待を裏切らない、大ケガしつつも藪の中から出てくるんですよね。そこ読んでたときは、そうこなくちゃ!と嬉しくなりました。安定感ありますね。頼れる先輩タイプです、源八郎。

他もたくさんの粋な男たちが

豪傑ばやり では能ある鷹は爪を隠す隠者系イケメンが。本当は伝説の豪傑なのにこっそりと田舎大名屋敷の馬飼係として暮らしている男が出てきます。るろ剣の剣心を彷彿とさせました。めちゃめちゃかっこいいです。

また、 虎を恐るる武士 ではあまりに現代的な設定のイケメンが出てきます。これは殿様のワガママで、可愛いからって月代を反らせてもらえないイケメン侍で、音楽の才能に長けていて、本物の笛の音は分別できるけど、虎を退治するのは怖いから飄々と逃げてしまうようなキャラクターです。カリスマ性あります。

やはり山本周五郎のキャラクター作りの才はすごいです。

おまけ : 時代性感じる折り込み冊子

一周まわってポップな新しさ感じます。

f:id:peephole89:20170403090715j:image

f:id:peephole89:20170403090658j:image