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あのトモ

- 本に出てくるあの娘ぼくがトモダチになろうっていったらどんな顔するんだろう -

ユービック - 語源は "Ubique", 神の偏在の物質

 

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

 

以前読んだアンドロイドは電気羊の夢を見るかに引き続き読んだPKD(Phillip K Dick)作品です。本作あまり聞いたことない方も多いかもしれませんが、あのPKD総選挙の時には「アンドロイド〜」を抜いて意外にも優勝した作品です。根強いファン層の存在を感じます。

www.itmedia.co.jp

 

あらすじ

神の力が何かはよくわからないけど、神の啓示は気づけばどこにでもあります。従っておけば現状は保てるし、助かります。ただしちょっと後味の悪さが残ります…という話です。

超能力者と、その能力の無効化能力を持った反超能力者がいて、かつ、仮死状態の人間を冷凍保存することで長く薄く生命を維持させるのに成功した程度の科学力がある近未来の世界のお話。

超能力者は個人の思考読み取りや未来予知をして機密情報を漏らすため(現代でいうハッカーみたいな位置付けかしら)、反能力者はそれを防ぐため、企業に雇われています。

語り手サイドは反超能力者の集団。ある日、敵対していた超能力者グループ関連での、オイシイ仕事を引き受けることになりました。

しかし現場について見ると先方の担当者がいきなり爆発し...

どうにか安全なところへ戻ると、何故か周りの建物、自分の持ち物などすべてのものの時間が逆行しはじめます。

パニックになる一行ですが、彼らの元には様々な手段を駆使して - トイレの落書きだったり、テレビコマーシャルだったり、日常のあらゆる場面でさりげなく - 死んだはずの仲間の一人から同じメッセージが届けられます。

この逆行現象を一時的に止めるものこそのが「ユービック」です!と。使用上の注意をきちんと守れば、安全に確実に効果が出る、そうです。

 

時間退行現象

さて、時間退行するとなにが悲しいか。

個人的なことですが、私は流行りもの、新しいものにあまりひかれません。

なんでもそうですが、話題性だけを狙った言葉回し、ゴシップ、大味の安い食品。揮発性の高い価値のものが溢れていると思います。それらに切なさを感じると同時に、それらにまみれて何だか楽しそうに浮かされている人たちにも切なさを感じます。

「わたしも、あなたも、いずれは死ぬ。死んだら皆同じ」

「話題になっているその価値は、結局単純に考えると、昔からあるただの○○だ」

など、私はこのように、物事を陳腐化して並べて見る傾向があります。世の中が無感動なものになるものの見方です。

作中での時間退行現象ではこういった価値観が被せられています。そこで効果を発するのが「ユービック」とのことです。

 

ユービックの成分

最大出力25キロボルトのヘリウム電池で動く自己充足的な高電圧・程増幅ユニットを備えた、ポータブル陰イオン化装置です。陰イオンは、強いバイアスのある加速室で左回りの ...

<略>

 いろいろつらつらと続きます。エセ科学感たっぷりですね。要は、そういう嘘くさい感じの魔法の物質です。一つだけ確実にわかっていることは、ものの価値の退行を防ぐ効能があるということです。

例えば作中でも、急速に衰えてミイラ化していく人間へシュッとひと吹きユービックスプレーをかけると、ピカピカの皮膚が現れるような描写があります。

アンドロイド... にも同じように「キップル」として、価値が陳腐化してしまった後のものの描写がみられますね。PKD自身もそういう価値観を持っていたのだろうと推測できます。ユービックはかれも欲しい商品だったに違いありません。

 

ユービックはどこにあるか

そうそうもう一つだけユービックについて確実なことがありました。それは私たちの生きている現実世界では手に入らないものです。

それが見え始めたらちょっと危ない類のもののようです。周囲の環境が崩壊し始めた時、例えば意味のわからない時間逆行現象に巻き込まれた場合に、いろいろな工夫を凝らした方法で、その入手方法がほのめかされることになります。

ユービックのスタンダードな姿はおそらく缶スプレーのようですが、時間退行に従って、缶スプレーが存在してない時間軸になっていると、ユービックは肝油でしたり軟膏に姿を変えます。

いつでも主人公がピンチの時には様々な形で現れてくれるいう特徴もあります。

なんなのでしょうね、ユービック。

 

まとまりのないまとめ

本作の面白さとして、特に"日常のあらゆる場面でさりげなく、死んだはずの仲間の一人から同じ、ユービックについてのメッセージが届けられる"、そのやり方が面白かったです。

気付いたところに神の、"ユービックにまつわる" 啓示が存在するのだと、繰り返いっているようでした。

それと最後の絶妙な後味にあるでしょう。最後、ゾゾっとしたのは私だけではないはずです。

ちなみに紹介しておいてなんですが、マイベストPKD作品はパーマー・エルドリッチの三つの聖痕 (ハヤカワ文庫SF)です。といっても「アンドロイド」「高い城の男」「パーマー〜」「流れよ、我が涙〜」 そして本作しか読んだことがありませんので、これは変動する可能性ありますけどね。

PKDで不気味な余韻を残さないタイプのエンディングのものってあるのかなぁ。今年中には読破したいところです。