あのトモ

- 本に出てくるあの娘ぼくがトモダチになろうっていったらどんな顔するんだろう -

2BR02B - ごきげんな世界、最後の問い

to be or not to be ?

ではなく"2BR02B"。

あの有名なセリフのようですが、このやり口は…私の大好きなカート・ヴォネガットの作品のタイトルです。

この物語は、バゴンボの嗅ぎタバコ入れという短編集に掲載されています。そしてなんと、原文は海外版青空文庫ともいえるProject Gutenbergからそのまま読むことができます。

2BR02B - @Project Gutenberg

日本語にして10ページちょいの短編なので、いけそうな方はレッツ・チャレンジ。わたしはインフルエンザで動けなくて本屋にもいけなかった時に見つけたので、さきに英語版から入ったクチでした。まさか、ヴォネガットが落っこちているとは思わなかったので、見つけた時には一瞬疑いましたが、数行読んで安心しました。

※ なお、そのインフルエンザ(人生初)の時に見つけたほかの珍品は過去にひとつ紹介しました。フリーで読めるサービスにも思わぬ出会いがありますね。 peephole89.hatenablog.com

何もかもが最高にごきげんとなった 世の中で。

Everything was perfectly swell.

病魔も老衰も戦争も事故もなくなってしまった、パーフェクトにピースフルな世界。

「死」は、望んで求められる以外に訪れることがなくなりました。

全米の人口は4千万人に固定された。

問題となるのは「人口制御」のシステムです。

パーフェクトにピースフルな世界を維持すべく人口の配分を最新の技術で最適化した結果、全米の人口は固定と定められました。しかし、年配の中にはかつての「人口制御」されていなかった時代の記憶があるものもいます。

ひとが「死」をあえて選ぶタイミングはふた通りとなりました。

ひとつ、こどもが欲しい時。人口は固定値で変えられないので、新入りを入れるためには誰か適当な穴を開ける必要があります。身内やまわりで志願者を募るケースが多いようです。

主人公にはもうすぐ三つ子が生まれます。彼はこの状況をどのように対処するのでしょう。…

そしてもうひとつ、何らかの理由で死にたくなった時。

この短編にはずばり後者の理由、ごきげんすぎる世界で、何かが麻痺しているとしか思えない状況の中の人間たちが描かれています。

2BR02B

この世界の中で自ら死を選ぶことは権利として認められており、その行為を行うための公共のサービスが確立されています。(その管理機関の固有名詞の訳の妙には膝を打ちました)

サービスを受けるための電話番号は2BR02B。コールすると、オペレーターより感謝の言葉が事務的に送られるシステムとなっています。あとは時間を予約し、指定の場所へ赴くだけ。懇切丁寧にホステスが対応してくれるはずです。

あなたのお申し出を、あなたのシティと国と惑星に変わって感謝いたします。でもそれ以上に、将来の世代はあなたに心から感謝するでしょう。

歳をとるスピードが格段に遅くなり、死を意識しなくなる生活に、完全に飽きてしまうまで

わたしだったら何年かかるのか…考えました。本編にはあまり詳細に書いて無かったので、勝手にいろいろ妄想してます。ひとが不死になるシチュエーション、たまにSFなんかでありますよね。

死が、区切りが遠くなれば、死ぬまでにやりたいこととか、どうしても後回しにできないこととか、そういう意識が希薄になるってことですよね。精神的に、なにかやったる!感が沸くことがなくなりそうです。

だって、いつだってできるんだもの。身体も衰えないわけですし、いつやったって同じならどうしていま、やる必要があるのか。物事の「最適なタイミング」がないのは味気がなさすぎる人生です。

それに若者人口が極端に少ないことも弊害があります。

たとえ、すでになされてきていることや、考えられてきていることの刷り直しみたいなのを繰り返すにしても、若者世代のエネルギー、存在そのものってのは、世の中のガス抜き的に必要なものだなと思うのでした。

だって、ある程度成人した人間はずーっとその容姿のままなわけですし、これまでになされてきたこと、大人が物知り顔でいる世界のあらゆる不思議を物珍しく眺め「再発見」できる程度にくたびれていないのは、多くの場合、それを知らないこどもしかいないわけです。

…と、ここまで書いていておや、と思いました。ちょっと今の日本と少しだけ似ているかもしれませんね。こどもを増やすのに躊躇し、上の世代の寿命が伸びてるかたち。人口制御の仕組みはないものの、働ける人が金銭的に養えるこどもや老人の数、そして肉体的精神的に自立していられるこどもや老人の数って、限られていますし。わりと、自然とそうなりかけてるのかもしれないです。

寿命は、ほどほどがいいです。

ショートフィルム として結構作品化されてた

まるで世にも奇妙な物語を彷彿とさせるタッチで、ショートフィルム化されているのをいくつも Youtubeで見つけることができました。 小説を読んだ後で見てみると、私の場合、映像作品群の設定の方が近未来的で、想像と違っていて、なるほどなあそう見える人もいるのか、と思いました。ググったら出てきます。

なんかそのうちの一つはカナダで賞をとったっぽいですね。ほうほう。日本でもそれなりに人気のある作家ですが、世界的にはもっと著名なのかもしれませんね。どうなんでしょう。

本作が掲載されている「バゴンボの嗅ぎタバコ入れ」は他にもヴォネガット初期の、味わい豊かな作品がいくつもあります。 作中でヴォネガットが「短編の効能」として語っているところそのままですが、息抜き用途として、瞑想用途として、「ちょうどいい」、そんな感じでした。