あのトモ

- 本に出てくるあの娘ぼくがトモダチになろうっていったらどんな顔するんだろう -

ムーンライト・シャドウ - 早朝四時の"恋"

キッチン (角川文庫)

キッチン (角川文庫)

もうすぐお盆。東北地方のよくある国道からちょっと入った山中の集落にあるわたしの田舎では、キュウリの馬とナスの牛を用意して、迎え火を灯します。去りし人がみんなと会うのにより速くこられるようにするための「馬」、より長く過ごし、のんびり帰れるようにするための「牛」、そして行き帰りに迷わぬようにするための目印としての「火」だそうです。仏壇もいつもと違う装いになります。わかめをぶら下げて、わら飾りをして ... いつもより特別にお供えのお菓子も多くなります。そんな様子なので、子供の頃からお盆になると、ほんとうに亡くなったじいちゃんや、ひぃばあちゃんや、おじさんなんかが帰ってきて、すぐそばで過ごしているような気持ちになります。

去ってしまった人のことを思う小説といえば、「キッチン」に収録された短編、「ムーンライト・シャドウ」。これが記憶に残ってます。いま読むと若いな…なんて感情や、セリフをいちいち発見しながら、ちょっといじわるに読むのも面白かったです。

BGMは Mile Oldfield の Moonlight shadow で。


Mike Oldfield - Moonlight Shadow ft. Maggie Reilly

あらすじ

大学生にして最愛の恋人を失ってしまった主人公は早朝のランニングを日課としています。彼女のランニングコースにある川沿いの道には特別な思い入れがあって、川の向こうとこちらでよく彼と待ち合わせをした場所なのでした。ある朝、橋の欄干のところで、見知らぬ女の人に声をかけられます。曰く、もうすぐ、百年に一度の特別なものが観れる(かもしれない)朝がくる、と ...

"恋" の定義

こっぱずかしいようなトピックですが。… ばななさんの作品って、わたしにとっては、良い少女漫画を読んだ後の読後感と近いものを得られるものたちです。

ムーンライト・シャドウは、女子二人が早朝の川辺で出会う所から始まります。彼女らのの共通点は、去ってしまった恋人を、… いま、ここにいないひとを想っていることです。

https://dentsu-ho.com/articles/5234

電通報の記事見て知ったのですが、「恋」っていうのはそもそも、亡くなったひとに対して会えなくて寂しいという意味合いがあったそうです。そこから、いま、ここにないひとに対して想う切なさを表すようになったとか。この由来面白い。

となると本作は二重の意味で「恋」の話と言えますね。

不思議な魅力の男の子たち

登場する男の子たちがまた独特で、ちょっと現実離れしてる感じがいいんです。...

たとえば亡くなってしまった、主人公の彼ですが、「はいこれ、餞別」って(きっと無骨に)主人公が渡したなんでもない鈴のキーホルダーを、そのままでなく、そっとタオルで包んで受け取るところ。主人公が恋に気づくのはこのシーンなのですけど、たしかにちょっとその、育ちの良さを感じるひと仕草がいいなっていうのはわかります。

それにその彼の弟、柊くん。小説を読んでいるとたまに、結構リアルにああこの子実在したら惚れてまうわって子出てきますけど、まさにその一人でした。

ちょっと変わった人でして、一人称が「ワタシ」で、亡くしてしまった彼女のセーラ服を着て登校しています。

こいつは育ちがよくて、雰囲気のある子で、賢いけど、それを素直に出すと出来過ぎているから、へそまがりの道化をすることで居場所を確保しているヤツだなと、わたしはよみました。

変人なりに直球な、ぎこちない優しさがかわいいです。 主人公がダウナーな時にかけた言葉。

確かにワタシはまだ若いですし、セーラー服着てないと泣きそうなくらい頼りになんないですけど、困った時は人類きょうだいでしょ? ワタシは君のことをひとつふとんに入ってもいいくらい好きなんだから。

ずるいですなあ、こういう人。 そして、描き方が流石、ばななさん。

Moonlight shadow - Mike Oldfield

ウィキペディアによるとこの曲にインスパイアされムーンライト・シャドウが出来たとか。

歌詞を見てから聴いてみたら、思いの外アップテンポな、でもただ明るくはない曲でした。同じテーマでも、作家の料理の仕方によって国を超え、フォーマットを超え異なる味わいにする作家って、すごい。

聴いて改めて思ったのですが、早朝四時って、それ以外にありえないなってくらい、何かそういうことが起きそうな時間で、ぴったりですよね。