あのトモ

- 本に出てくるあの娘ぼくがトモダチになろうっていったらどんな顔するんだろう -

THE FIRST BAD MAN - “discomfortable brilliance” な作品の存在意義

The First Bad Man: A Novel

The First Bad Man: A Novel

来春に岸本佐和子訳で、新潮クレストブックスから翻訳が出る予定の、ミランダジュライ未翻訳小説。

いちばんここに似合う人 (新潮クレスト・ブックス)

いちばんここに似合う人 (新潮クレスト・ブックス)

いちばんここに似合う人をぱらぱら見て、一筋縄ではいかない筋が好みだったのと、また本作のあらすじをみてなんか自分と近いものを感じ、待ちきれずに購入。

久々に英語の小説を読みました。

あらすじ

シェリルは43歳。バリバリのキャリアウーマンで、同僚からも頼られる存在。少しだけロマンチストなところが玉に瑕の女性です。65歳の同僚フィリップの事を密かに良いな、と思っています。フィリップとシェリルは長年連れ添った夫婦のように、なんでも話せる気の置けない友人関係にありました。

シェリルは自ら”システム” と呼ぶ、決まった生活スタイルに沿って暮らしています。全てが効率的で彼女に最適化された暮らしです。

ある日、日常は突然壊されます。職場の上司の娘、クリーを預かることになったのです。クリーは20歳の反抗的で怠惰な娘で、まず両親が持て余し、両親の周囲の大人たちの中でたらい回しにされた上でシェリルの元にやってきたのでした。クリーはシェリルの平和な生活をことごとくぶち壊してゆきます。それとほぼ同時にフィリップから重大な相談があると持ちかけられ…

感想

片っ端からマトモが壊されてく人々

クリーばかりが理不尽で手に負えない人間だと思っていたらとんでもない、この話にはマトモに見えて理不尽で自分勝手な人間がたくさん出てきます。

イケメンナイスミドルかと思ってたフィリップ、冷静で頼れると思っていたセラピストのラス=アン、さらには主人公のシェリルでさえも屈折したものを抱えており、それらはシェリルの行動によって(作者が意図する通りに)容赦なく暴かれてゆきます。

シェリルが周りの人々を結果的に暴いてしまうのは、シェリル自身が思っていることを包み隠さずに相手にぶつけることをするからだと思いました。シェリルこそ案外、変態じみたことや、ロマンチックが過ぎる誇大妄想を抱えているのですが、それはそのまま文章で説明されているので、読者は彼女の正体を理解した上で読み進めることができます。読んでいるとわかるのですが、シェリルが思っていることのうち少なくはない割合のものが、実際に行動されているということに気づくでしょう。

不快だけど輝きを帯びた小説

”discomfortable brilliance”と表紙に評されているまさにそんな内容ですが、不快な小説なんて誰得なのでしょう。

これはおそらく、そうはうまくいかない現実を生きる、全ての「シェリル」を納得させるための物語なのだと考えました。

シェリル - あまり男性にはモテないがお人好しで、性別を超えて女性からも男性からも信頼を置かれている人物。

いつの間に一人暮らしのプロになっていたけど、心の奥底には少女のようなロマンチストがずっと潜んでいるいい年の女。

なにごとも想像だけで満足しがちだったけど、きっかけさえ与えられれば如何にも大胆になれる大人。ただし結構不器用。

並べてみると、もう他人事に思えないシンパシー。わたしみたいな人たちに、もしきっかけ(作中ではクリー)が与えられたらどこまで世界は壊れうるか、をひとつ示してくれているんだと思いました。

起床転結ハイハッピーエンド、のベタな話では味気ないという人向けの、へそまがりな作品だと思いました。ダメなヤツらが出て来る作品は、自分のダメさを覆い隠し、まだマシだと甘やかし、少しだけ救ってくれるのでした。