あのトモ

- 本に出てくるあの娘ぼくがトモダチになろうっていったらどんな顔するんだろう -

スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス … ブルックリンの人間交差点

クリスマスシーズンになると思い出す映画。さらに言うと、これを知っている人と出会ったらちょっぴり嬉しくなる映画「スモーク」、そしてそのスピンオフ映画「ブルー・イン・ザ・フェイス」。これらの脚本が、一つの文庫本で出ていることを知ったので、読んでみたのです。

なんと絶版でしたので、Amazonで紙の中古本を取り寄せました。…

主な登場人物 : スモーク

  • オーギー ... 「ブルックリン葉巻商会」で働く、むさ苦しい、40から50くらいの男。結構モテる。
  • ポール … 「ブルックリン葉巻商会」の客の一人。妻を事故で亡くしてから書けなくなった小説家。
  • ラシード … 12歳の黒人家出少年。スケッチをするのと、デタラメの物語をでっち上げるのが得意。
  • サイラス … 街のはずれで自動車修理を生業とする、大柄な黒人男性。左手が義手。
  • ルビー … オーギーの元恋人。右目に眼帯をしている。
  • フェリシティ … 「幸福(felicity)」と名付けられた、ルビーの娘19歳。ヤク中で、ヤンキーの彼氏と暮らす。
  • エセル婆さん … オーギーがカメラを手に入れた家の主。盲目の黒人女性。80から90歳くらいらしい。

あらすじ : スモーク

アメリカ合衆国ニューヨーク州、ブルックリン市の街角にあるタバコ屋は常連客に愛されています。そこの店主、オーギー・レンは10年以上、毎朝、35ミリカメラで店の前の同じ場所を撮影し続けていました。

近所に住む小説家のポールは客の一人です。ある日彼は車にはねられそうになったところを黒人の少年、ラシードに救われます。ラシードは嘘か本当かわからない話ばかりする夢想家の家出少年でした。ポールはラシードを部屋にかくまうことにします。数日してラシードの叔母がポールの元に現れます。彼女の話すところによると、ラシードは実の父親を探すために家出をしたとのことでした。実はラシード、亡くなったと思い込んでた父親が生きている噂を聞いていたのです。いろんなごたごたの後、ラシードの嘘や無理が全て明るみになったとき、熱い展開が待ち構えていたのでした。

ラシードの話の後、オーギーの元に元ガールフレンドである眼帯の女性、ルビーが現れます。曰く、オーギーと彼女の間の娘だという人物に会ってほしいとのこと。嫌がるオーギーですが、後日半強制的に娘の元へ連れて行かれます。精一杯振る舞ったオーギーですがヤク中の娘には響かない様子。… しばらくしてまたオーギーはルビーと再会し、偶然の顛末から転がってきたものが二人の溝を埋めるのでした。

最後はポールとオーギーの話です。小説が書けるようになった後、ポールはニューヨークタイムズ紙からクリスマス用の短編を依頼されていました。しかし行き詰ってしまい、オーギーの元へ相談に行きます。オーギーはポールを近場のレストランへ連れ出し、「一言一句、嘘のないっていうお墨付き」の昔話を語り出すのでした。それは、オーギーが35ミリカメラを手に入れることになった経緯で、少し変わった、とっておきのクリスマスストーリーでした。

所感 : スモーク

物語が真実になるとき

信じる者が一人でもいれば、その物語は真実にちがいない

オーギーの話すどこか嘘みたいなクリスマスストーリーを聞いた後、ポールが考えた結論です。素敵なクリスマスストーリーだったので、この場合真実だったらいいなと読者は思いました。ひと時の安らぎをもたらすことが目的なら、その物語の信ぴょう性は大して問題にならないのかもしれません。報道や伝達の場面ではダメですけどね。

「最後の物たちの国で」もそうですけど、オースターって、嘘か本当かはわからないけど「ものがたる」力のあるキャラクター(しかもあえて嘘っぽい雰囲気の)、出すの好きだよなと思ったのでした。

生き生きとしたキャラクターの秘密

大筋はあらすじの通りなのですが、それ以上に主役脇役含め、キャラクターが人間くさく、生き生きとしているのが魅力的です。文庫本に書かれていましたが、それを可能にしていたのは各キャラクターを演じる役者の為のノートでした。これは脚本担当のポール・オースターが直々に、役者の役作りのために作ったものです。各キャラクターの過去や嗜好が描き込まれています。このような設定が与えられるだけで、細かいセリフの指示がなくても面白いようにアドリブがまわったようで、スピンオフ映画「ブルー・イン・ザ・フェイス」ができてしまうほどだったと言います。確かに設定が何かしら用意されれば、不思議と勝手に想像は膨らむものです。

街への愛着を感じる文章

彼らのタバコ屋がニューヨーク州ブルックリン市にあることも一役買っています。オースターはブルックリンに住み、ニューヨークの話を書いてきた作家です。オースターの目のフィルタを通して、ブルックリンの等身大の魅力が描き込まれていたのだと思います。例えば映画のセットのうち、書けない小説家、ポールの部屋の美術にはこだわったということが書いてありました。

やっとこれで、ニューヨークのアパートらしいアパートが映画に登場するんだ。ハリウッド映画を見ていて気になったことはないかい、ごく普通の暮らしをしているはずの人々がみんな、トライベカの三百万ドルのロフトに住んでいるのが?

それに「ブルー・イン・ザ・フェイス」はわざとエピソードとエピソードの間に、実際のブルックリンの住民へのインタビュー映像が織り込まれている構成で、より地元、ブルックリン色を強調した作りになっています。そんでまたインタビューを受けてるブルックリンッ子たちが街を好きなんですよね。シュミで木に引っかかったビニル袋を取る活動をするおじさんが好きでした。

ドラマ「深夜食堂」にも近いものがあるかもしれません。溜まり場で、リラックスした人々の表情の中に潜む、それぞれの物語。ひとつひとつはなんてことないのですが、特に夜なんかにぼーっと見てるだけで、なんだか暖かい気持ちにさせてくれる不思議な魅力があると思います。

枯れた渋いおじさんが好きな方。あるいは、ここではないどこか外国の、何でもないコミュニティに紛れ込みたい願望を持ったことのある方におすすめの作品です。

スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス (新潮文庫)

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