あのトモ

- 本に出てくるあの娘ぼくがトモダチになろうっていったらどんな顔するんだろう -

「ペーパームービー」ある、恵まれた自覚のある女の子の語り

うちにテレビはないけれど、インターネットのニュースを開けば樹木希林さんを追悼する内容で溢れている。

平成元年生まれの、しかもドラマや映画に疎かったわたしにとっては、樹木希林さんといえばフジカラーのCMに出てるおばあさん、程度しか正直、知らなかった。

むしろそれよりは「終活」をしっかりとしていらっしゃって、全身がんに蝕まれながらも穏やかに生きていらっしゃる姿や発言が印象的な方と映っていた。なんとなくわたしの祖母とシンクロして見えていた。

遅ればせながら、女優としての彼女を認識したのは「海街ダイアリー」だったんじゃないかと思う。そして昨晩「日々是好日」を見てきたけど、演技している感じが無く、その人そのものになっているようだった。でもドキュメンタリーに見えるかと言われると違っているから、そこには女優の絶妙な塩梅が効いているのだと思う。存在感のある女性だ。

「ペーパームービー」はそんな彼女の娘、内田也哉子さんが19歳の時に書いたエッセイ(文中では手紙のようなものと言っている)だ。樹木希林、そして内田裕也という強烈な両親の元で育った女の子が、旦那さんのモッくんと出会うまでの断片が、生き生きと、自由奔放な文体で描かれていた。わたしが19歳の頃はこんな風には書けなかったろうと、少しだけ嫉妬してしまった。

さすが?というか、也哉子さんの場合、小さい頃の環境から凡人ではない。西麻布にお家があって、小学校はインターナショナルスクール。その時にすでにホームステイ、海外経験を済ませてしまい、帰国後は中学いっぱいまで日本の公立高校へ通う。周囲と自分の間の溝を認識し、存分にカルチャーショックを受けた後、また海外へ。最終的にはハーバード大学で学んでいたという、インテリだ。19年間で、なんと濃い、わたしから見れば、なんとまるでムダのない人生を歩んでいらっしゃったのだ、と思う。

さておき。也哉子さんから見た、周囲の人物の描写が面白い。樹木希林内田裕也本木雅弘という個性派の有名人たちは彼女にとって、母であり父であり夫である。その距離感で接する彼らは、まるでフィクション小説の中の登場人物のようだ。

希林さんという母親は、肝が座っていて、それでいてしなやかな人だなあと思った。他の人の感想にもよく書かれているように、也哉子さんの小学校転入時のエピソードを見ると、特にそんな風に思った。裕也さんという父親は、破天荒そのもので、お家にいなかったり、お酒を飲んで暴れたり、逮捕されたり…かと思えば誰がとったかわからない8ミリのフィルムのパリの街中で、ロマンチックなセリフを詩のように残すような人。そして本木雅弘さんは、不思議な人だと思った。

本木さんと也哉子さんの関係が垣間見える話に、他人の愛の話だというのに、わたしはロマンチックな気持ちになってしまった。「私の叔父さん」っていうエピソードと、あとは、プロポーズ?のお話「花」ってエピソードは特にうっとりと、やさしい気持ちになって浸ってしまった。カメラ外だというのに、ドラマのよう。うらやましいカップルだ。


大きくなって私は血のつながっていない人を、ある人と同じくらい、もしかしたらそれ以上愛することを知りました。そしたら今度はひとりの人が、兄妹でもあり、お父さんでも、お母さんでも、本当のこどものようでもあることが見えてきました。

「あい」って、そういうことなのかと、かつての19歳の女の子に教えてもらった。私なんか十歳も年上だけど、まだ探している気がする。

あとがきで

この本が、こういう「何だかいつも恵まれている感じ」がしているひとの「ああ、そういう風に恵まれているのかあ」というのがささやかながら感じられる、紙の映画のように仕上がっていればと願っています。

なんてあるけど、著者の狙い通りです。こんな自信たっぷりに自慢みたいなことを豪語されても、不思議と嫌味がない。すごいなぁ、こんな文章もあるのか、と思った。

読み終わって、心地のいい日向ぽっこが終わったあとみたいな気持ちになる一冊だった。

ペーパームービー (講談社文庫)

ペーパームービー (講談社文庫)